1999年6月25日(金) 再びパリ散策
いよいよフランスでの最後の日だ。明日の飛行機まで、悔いのないフランス滞在を過ごそうと思い、
できる限り博物館を巡ることにした。そこで早速フランスの博物館・美術館(フランスでは両者の
厳密な区別はなく、いずれもミュゼと呼んでいる。とても良いことだと思う)が共通で発行して
いる入館パスポート「カルトミュゼ」の1日券を購入。この制度自体もとても良い試みだと思う。
売上げの再分配システムなど、今後機会があればぜひ勉強させてもらいたい。
さて、それではいよいよ出発!
まずは一番近くにあった欧州写真博物館へ。ちょうど熊本県博でも写真を
取り扱おうとしている所だし、ここを美術館と訳さずに博物館と訳した理由は何だろうなどと想像
しながら向かったが、残念ながら11時の開館までまだ早かった。そこで入口でパンフだけもらい、
また出直すことにした。しかしそれにしても11時は遅いなー。写真を扱うだけに建物はお洒落だった
けど。あ、パンフに日本語版があったのは嬉しかった。さて、そのままブラブラ歩いて
近くのカルナヴァレ歴史博物館へ。パリ市の歴史を展示とあるが、ほとんど貴族の
絵画ばかりだった(少し衣装や雑貨あり)。パリ革命の辺りの展示室では絵画も血生臭くなってきて
かなり恐かった。民俗学徒の僕には貴族の生活はまったく興味がないので不勉強だったが、もしパリ
革命を勉強している人なら、それぞれの絵に描かれている出来事とか、この肖像画は誰なのかとかが
分かって面白いだろうなと思った。今度はそういう詳しい人と一緒に来ることにしよう。さて、カルナ
ヴァレを出たら11時は過ぎていたが、何となくまた戻る気もしなかったので、さらに先に歩いて
今日の目玉であるラヴィレットを目指した。途中、ピカソ博物館の前を通った
のでここも立ち寄ってみた。いずれにせよ、カルトミュゼで入館可能だ。それにしても、ちょっと歩く
だけでこれだけの博物館や美術館に会えるとは、なんていい国なんだと思う。さてピカソ博物館
は博物館とは訳すもののやはり
美術館であったが、絵画そのものは楽しめたので、やはりここも今度は誰かピカソに詳しい人に解説して
もらいながらまた見てみたいなと思った。やはり、解説は大事である。博物館の業界では、解説は賛否
両論だが、やはり必要だと思う。ホンモノを見せればコトバはいらないという人もいるが、そんなことを
云ったら学芸員は必要なくなる。確かにやりすぎは考え物だが、予備知識のない来観者にとって、資料の
魅力をできうる限り引き出してくれる人間は必要と思う。
さてさて、そんなことを考えながら歩いているうちにもう昼も随分過ぎてしまった。急がねば。
気分に任せてかなり滅茶苦茶に歩いたので、場所も分からなくなってきた。バスの案内板を見たり、人に
聞いたりして何とか地下鉄乗り場に辿り着き、ようやくラビレットへ。まずは個人的に大いなる
興味を持って音楽博物館を見学。うわー、建物がお洒落!パンフ類も
奇麗だ。
やっぱ博物館の印刷物もこうでなくてはと一人感心しながら受付けに向かうと、入口で
ヘッドフォンを渡される。どうやらこれをつけて廻れと云うことらしい。何が起こるか、子供のような
ワクワクした気持ちで入場すると、またもやフランスお得意の奇麗な透明板挟み展示ケースの中に大小
さまざまな楽器が山のように展示されている。もう無茶苦茶嬉しい。
実は楽器大好き人間なのである(笑)
ここでもやはり多くの子供たちの集団が見学に来ていて、みんなで
ペタンと床に座り込み解説員の話を聞いていた。フランスの展示はこうして解説とセットになっているのはいいことだと思う。
仏語のできない私には、横で聞いてもさっぱりであったが、嬉しいことにヘッドフォンから英語の
解説が流れたので助かった。しかしここで本当に良かったのは、解説だけでなく、
音が
流れてくることである!音楽の博物館であるから考えてみれば当然ではあるけれど、
音というのは意外と大事かつ効果的である。例えば、18世紀頃の室内楽、みたいな展示があって、楽器群がただ並んでいるのだが、
そこに近づくと、ヘッドフォンからそれらの音が混在となってゥワー〜!と流れてくるのである。もう、
これは素直に感動である。感動しまくって、ついにクラリネット展示の辺りで涙が出てきてしまった。
音色がすごく奇麗だったせいもあるけれど、そのとき、かなりこれまで精神的に張り詰めていた
んだなと自覚した。つまり、心が緩んだのである。音楽って本当すごい。神さまありがとうなどと訳も
分からず感謝しながら、館内を酔いしれて歩いていると、
あるスペースで実際に縦笛を演奏している人がいた。
子供たちに向かって、説明しながら吹いているのである。こういう演出もさすがだなと思った。聞けば
彼女はプロの演奏家で、ある期間契約を交わしてここで演奏をしているそうである。若い演奏家に
とって、博物館が収入の場になる国とはありがたいだろうと感じた。さすがフランスである。
しかも彼女は尺八を知っていたので話が弾み(笑)、日本から来た友人のために
と、珍しい曲吹きを披露してくれた。高低二本の笛を同時に吹く、一人二重奏である。実際見たのは初めて
で、とても楽しかった。彼女の話によると、尺八も奥に展示してあるというので早速進んでみると、
あった!日本の楽器もちゃんと(いちばん端っこだけど)展示してあるではないか。
箏、三味線、鼓、琵琶など、
いやー、こんな異国で君たちに出会えるとは。しかもちゃんと中国のコーナーに隣接してあって、
日本の楽器群が中国からやってきていることが一目瞭然である。ううむ、
欧米人の割にやるなぁ、
アジアの楽器も分かっているではないかと感心してしまった。
そんなわけで、音楽博物館を出た頃にはもうすっかり夕方になってしまっていて、もはやこれ以上
廻るのは不可能な時間であった。一番行きたかったラビレットの
科学博物館は、目の前にして
挫したが、いや、それ以上にそのときの私は何かこうすがすがしい気持ちでいっぱいだった。
きっと一週間頑張ったので、神さまが最後にご褒美をくれたのだろうと思いながら、ラビレットは
また次の訪仏にとっておくことにして地下鉄に乗り込んだ。パリの地下鉄にはたくさんの演奏家も
乗り込んでくる。アコーディオンを弾いたり、ヴァイオリンを弾いたりして、乗客から小銭を稼いでいる
のだ。いいなあ、いいなあ。
日本でもこんな人たちがいたらなあ、と本当に羨ましく思った。日本の
地下鉄はただうるさいだけで退屈である(地下鉄に働く人たちのせいではないけれど)。南阿蘇鉄道でも、
こんな人たちを雇って車内で演奏してもらえないだろうかと思う。例えば、トロッコ列車にカン
トリーなどいいではないか。博多のキャナルシティでも現にやっているし、日本でも部分的に
可能な案ではないかと思うがどうだろうか。
昨夜のユースで入手した情報のおかげで、情報誌に載っていないいい宿もとることができた。
やはり旅人同士の情報が一番である。
ひっそりとしたプチホテルで、何とも雰囲気がいい。欧米人に人気の宿のようだった。フランスを
旅する者たちは、どこの国の人間であっても、例えば朝食のときにちゃんとボンジュールと
仏語で挨拶をするのは気持ちがいいなあと思う。店に入るときでも、きちんと店主と挨拶を
する。いらっしゃいませではなく、こんにちはという挨拶はとてもいいと思う。こんな都会でも、
やろうと思えばきちんと挨拶できるのだなあと反省させられた。その晩は、初日にお会いした先輩の
お知り合い宅を訪ね(フランスに住み込んでお菓子の修行をされているそうだ)、お別れの挨拶を
してきた。もうすっかり慣れた中華惣菜を買い込み、ワインも買って簡単な送別会をしてもらった。
お祝い(?)だからと、レトルトのカレーを食べさせてもらったのは楽しかった。ご飯もレトルトで、
面白いのでその四角いまま頂いた(笑)そう云えば先輩はその後イタリアでどうなったのだろう。一度
ルーアンで国際電話をかけたときには(先輩は国際携帯電話を持って行ったのだ)「
いや〜、思いがけずこっちの
お祭りに出会ってね、ものすごく楽しいからもうしばらくこっちにいる
よ」と云われていた。いつフランスに帰ってくるのだろうか、分からない。でも先輩のことだから、
また無事に日本でお会いできるだろうと思いつつ、もうすっかり暗くなったセーヌ川を歩いた。思えば
今回の旅はこのセーヌの旅だった。パリ、ルーアン、コウデベック・・・それぞれのセーヌを見せてもらった。
それぞれのセーヌがあり、それぞれの生活があり、そしてそれぞれの博物館もあった。博物館って地域に
とって一体
何だろうなんて改めて考えつつ、色んな考えが浮かんでは川に流れていった。惜しむらくは、隣に
誰もいないことである(苦笑) よし、今度は絶対誰かと来ようと試しに誓ってみた。そのために(ではないけれど)
ルーブルにも結局行かなかったのである。あそこは新婚旅行にとっておこうということにする。それに
してもフランス人(かどうか知らないが)のカップルの激しいことよ!あの国ではきっと、
3分に1回愛してると云わないといけない法律や、
エスカレータに乗ったらキスしないと罰せられる法律があるに
違いない。偉大なこの国を心から敬愛する。