『谷人』のこと: 阿蘇たにびと博物館が発行している『谷人』は、1998年8月に 創刊されました。当時は梶原個人が阿蘇で調査したことや活動しているということをとにかく地元の人たちに伝えた いとの思いだけで作成し、B4サイズでたった1枚という(半分に折りますので4ページ)ものでした。熊本市内の印刷所まで 頼んで2000部とか3000部印刷し、地元の新聞屋さんに頼んで周辺町村に折り込んでもらいました。すべて自費でした。それでも 当初は毎月出していたので、必死だったのでしょう。初めはとにかく字ばかりの「調査報告書」だったのが、5号から写真も入り、7号 からは他の方から原稿も頂けるようになりました。しかし9号まで出したところでお金が尽き、疲れも出てきました。 それで2001年の10号はインターネット上の発行を試みてみました。内容は同じでお金も かからずしかもカラーということで喜んだのですが、しかし地元のお爺ちゃんお婆ちゃんには伝わりませんでした。 2002年になって博物館の事務所もできて忙しくなり、8月に11号を初めて本の形にしてなんとか出版し2001年度の友の会員さんに 配布しましたが、もうとても年に何冊も出せる余裕はなくなっていました。それで2003年度分の12号からは博物館の「年報」とし、 あわせて友の会の会誌ともして出すことにしました。以下は、「阿蘇たにびと博物館だより」として出していた 9号(2000年)までの内容を紹介した昔のページです。今にしてみると変遷が分かる部分もありますね。ご参考までにあげておきます。 なお、11号(2002年)以降のものについては「売店」のページをご覧下さい。


『谷人』
阿蘇を深く愉しむための情報誌
the newsletter of aso tanibito ecomusee

内容のご紹介



● 2000年11月号(通巻9号)
巻頭えっせい9 ハレとしてのケ
阿蘇の生物学3 阿蘇の草原と糞虫
はじめての博物館5 美術館
阿蘇のことば8 なば
谷人のひろば
巻頭えっせい9 ハレとしてのケ
 今年7月、初めて岩手を訪ねた。日本エコミュージアム研究会の全国大会参加のためだが、 会場の東和町は町民主体のユニークな地域づくりで知られる自治体だし、また隣りの遠野市も、 説明の要らぬほど民俗学徒にとって憧れの土地なので、大変楽しみに出掛けた。
 東和や遠野の地域づくりで興味深いのは、既成の文化施設や派手なイベントではなく、普段の、 自分たちの生活そのままを見せていこうという姿勢である。そのため研究所を作り、自分たちの 暮らしのどこが大切なのか、自ら文化や自然を調べ、それを皆に伝えていく活動をしている。 これは都会志向の中で置き去りにされた地方が、自らの手で、自らの地域を再び起こしていく作業 とも云えるだろう。
 今回感じたことは2つ。1つは、今少しずつ日本の地方は自立しつつあるということ。都会に 媚びるでなく、自らの足元を見つめ、まず自らの幸せを考えること。そしてそれをちゃっかり観光 へも結び付けるしなやかさも持ち始めた。もう1つは、観光は今ハレからケに移行しつつあること。 都会という非日常(ハレ)に暮らす人々は、もはや余暇にまでそれを望まず、自らの原点であるケに 回帰するという意味で、純粋な田舎を求めていること。そしてそれが新しい観光の形や環境保全活 動にも結びついて広がっている、そんな動きを感じた。
 それにしても今回の岩手では、美術館や城址といった既成の文化施設にしか残念ながら案内して 貰えなかった。お客様は座敷までという認識は、まだまだ観光の面でも強いようである。しかし 彼らの優しい笑顔にそうも云えず、逆にこの笑顔が展示の1つなのかもと思いつつ。
 さて、阿蘇では如何だろう。■
写真 刈り干しの共同作業(阿蘇郡白水村両併、昭和初期)、 後藤敬喜氏(白水村両併)所蔵
 梶原宏之(当館民俗学担当学芸員)

阿蘇の生物学3 阿蘇の草原と糞虫
 糞虫(フンチュウ)とは牛や馬など動物の糞を食料にする甲虫類のことです。「ふんころがし」と 言えばすぐに理解できると思います。ただし、日本の糞虫はほとんど糞を転がすことはありません。 牛の放牧の盛んな阿蘇の草原には何十種類もの糞虫が生息しており、糞の分解、肥料化、清浄化、 ハエの発生の抑制など生態的に非常に重要な役割を担っています。海外では家畜の糞の処理をさせる ため糞虫が導入された事例があります。糞と聞いただけで汚いと連想されがちですが、糞虫は形態、 色彩ともにとても魅力的な種類が多いのです。カブトムシに負けない見事な角を持つ種や、金属色を 持つ美しい種がいます。たとえばゴホンダイコクコガネはその名のとおり五本の角を持ち、センチ コガネは、同一種であっても個体それぞれ赤紫、青、緑など異なった色に輝いています。ほかの地域 では同じ色彩の個体しか認められないところもあり、阿蘇のセンチコガネの色彩が多様なのは、それ だけ草原が広大で豊かな環境のせいかもしれません。
 それぞれの種の糞虫は、全てが同じところで同時に見られるのではなく、季節、場所、標高、 糞の質、日当たり具合など環境のさまざまな違いをすみわけて生息しています。このことは、ある 場所で牛の放牧をやめれば、ある種が減衰する可能性を示唆し、同時に、阿蘇の多様な糞虫相を維持 してゆくためには、いろいろな場所で放牧が行われるのが望ましいことを意味しています。近年、 形態や色彩の魅力的な種ほど減少し、ある特定の種ばかりが多く見られるようになってきている気が します。畜産業の衰退に伴う草原の消失は、野草やオオルリシジミの減少を招くといわれますが、 糞虫も例外ではありません。糞虫といえども阿蘇の魅力のひとつと捉え、後世に残していきたい ものです。■
 田上義明(当館生物学担当学芸員)

はじめての博物館5 美術館
 美術館と博物館。この2つは世間でどう区別されているのでしょうか。きっと美術館は絵や芸術 作品を飾る所で、博物館は古い物を並べる所くらいの印象かなと思っていたら、どうもそんなレベル でもなさそうです。今年、阿蘇に新しい美術館ができたのですが、あれはお宅ですか?と数人に尋ね られました。あちらは美術館でうちは博物館ですと答えると、謎めいた顔をされます。何だか知ら ないけど、どっちでもいいということでしょうか。間違い電話に美術館さんの番号を教えるときも、 最後までどうも腑に落ちない感じの方もおられます。大方の認識はこの辺りなのでしょうか。
 これらはもちろん美術館や博物館に対する理解不足から来ているとは思うのですが、しかし逆に 考えれば、美術館と博物館を別にする理由とは何でしょうか。関係者は最初から別に考えがちです が、そもそも何故別にせねばならないのか?英語では博物館も美術館もミュージアムですし(特に 美術を強調したいときはアートミュージアムと云います。つまり美術館にあたる単語はないのです)、 またフランスでも共にミュゼと云います。それを日本人が勝手に美術館とか博物館とか資料館と訳 しているだけなのです。これらを分ける必然性を、僕たちはもう一度考え直す必要があるかと思い ます。
 また不思議なことに、日本は美術館は建っても博物館は建ちにくい国のようです。美術品は投機 対象になるとか、隣の芝生は青いとか、理由は様々あろうかと思いますが、何しろ勿体ない話です。 海外の人たちから見ると博物館の資料こそ珍しい物ですから。また財政の厳しい自治体が、2つも 作れないので美術館だけというのもよく見聞しますが、両方合わせて小さなミュゼを一つ作ればよ いのです。そして美術部門は美術資料を通して、博物部門は博物資料を通して、ユニークな企画展 やワークショップなど、地域の人々のために活動すればいいと思います。資料を通して地域を創造 するという目的は共通でしょうから。また、時には両者が力を合わせた共同企画なども考えるとワ クワクします。そんな芸術と学術の融合が進めば、逆に両者を分けるほうが腑に落ちない時代が来 るかもしれませんね。楽しみです。■
 梶原宏之(当館民俗学担当学芸員)

阿蘇のことば8 なば
 阿蘇のお祭りで煮しめをご馳走になっているとき、ある若者が「こんナバが苦手とですよ」と云 った。ナバと云うから菜っ葉のことかと見れば、予想をくつがえして何と椎茸を指しているではな いか。何故椎茸がナバなのか?ホウレンソウか何かなら想像もつくが、椎茸とは実に驚くべき発見 である。
 帰って早速国語辞典をひいてみると、「きのこ(茸)の異称」とたった一言。おいおいもう少しま ともな説明はないのかと思いつつ、いや待て、キノコとは聞いてないぞ。椎茸はどうなったのだ。 というか、椎茸ってキノコ?などと次々に疑問が走馬灯のように頭を巡ったが、辞典にある以上少 なくとも阿蘇だけの言葉でもなさそうだ。木の切り株から新たに芽が生えてくることを阿蘇ではヒ コバエと云うが、全国ではナバエと云う地域もあるらしく、ナバはこの辺りから来ているのかとも 思う。そう云えば喧嘩で相手をボコボコにすることをナバンスル(ナバにする)と云うが、これは阿 蘇だけだろうか?ちょっとコワイです(←何故か突然丁寧語)。■
 梶原宏之(当館民俗学担当学芸員)

谷人のひろば
 13日の金曜日にお寺で琵琶という、何とも怪しげな(笑)秋のワークショップに参加された 方々のアンケートからご紹介します。
▼琵琶の事が良く解り、とても良かったです。一番前で聞けたので音色も素晴らしく感動致しました。 邦楽の良さを再認識しました。(熊本県 阿蘇町・40代・女性)/ありがとうございます。ただの 演奏会でなく、琵琶という九州の文化も知って欲しいと願ってのワークショップでしたので何よりです。 ▼琵琶を初めて見て、聞けて、しかも間近で…。素晴らしい。今までにない音色にしんみりなりました。 ありがとうございました。(熊本県 久木野村・50代・女性)/やはり日本の楽器は生音で、間近でが 理想ですね。今回はちょうど100〜200年ほど前の阿蘇の夜を再現した、貴重な体験となりました。 ▼後藤さんと梶原さんの話が面白かったですね。琵琶のことでわからない事など聞けて良かったです。 最後の「酔弦」の音色にジーンとしました。(熊本県 高森町・40代・女性)/少し梶原が喋りすぎ たかなと反省しています。本当は後藤先生にもっとお話して頂く予定だったのですが…。例えば元々 ギタリストを目指していたのを琵琶に転向した話とか。▼簡潔にまとめてあって良かった。また、 寺の会場で雰囲気が出て良かった。もっと他町村へのPRもしてほしい。(熊本県 高森町・50代・ 男性)/すみません、予算不足でした(涙)。次回までに頑張ります。お寺を会場にしたのは大成功 でしたね。和尚さんも大変乗り気でしたし(笑)▼充実した資料が有難かったです。琵琶の演奏を寺 でという原点ともいえる発想が面白かった。(熊本県 熊本市・30代・女性)/資料は当日まで本当 にドタバタで大変でした。お役に立てましたでしょうか?予想を遥かに上回るお客さんに準備分もす ぐなくなり、大勢の方にご迷惑お掛けしました。▼「さわり」のお話が勉強になりました。日本人 でよかったなと思いました。たくさんの日本の文化、心にふれたいと思いますので、また宜しくおね がいします。ワークショップっていいですね。(熊本県 阿蘇町・30代・女性)/分かって頂けまし たか!サワリの文化はもっとも知って欲しかったものの一つでしたのでとても嬉しいです。日本人っ てすごいなあとつくづく思います。▼構成、照明、演奏など良く、参加者も幅広かったので良かっ たと思う。「酔弦」も随所に言葉遊びあり、音色だけで交いを表現したり、ソウル有りと引き込まれ るものがありました。体験コーナーがもう少し長く欲しかった。(熊本県 白水村・30代・男性)/ 体験コーナー、次回はもっと準備して充実させますね。今回は白水郵便局長の笠野さんがご協力下さ いました。琵琶を弾くなど仲々ないと思いますので喜んで頂けたなら幸いです。/この他にもたくさ ん頂きました。皆さん本当に有難うございました。お陰さまで会場も超満員!演奏された後藤幸浩氏 は阿蘇の出身でもありますし、これからも皆で応援していければと思っています。●この欄では皆さ んからのお便りをお待ちしています。ご意見ご感想、最近阿蘇について感じたことなど何でもお寄せ 下さい。
次号予告 琵琶を、愉しむ。10月13日 に阿蘇郡白水村の円林寺で行なわれた第4回たにびとワークショップ「薩摩琵琶を、愉しもう。」の様 子を特集でご紹介します。
友の会から 博物館では友の会会員を募 集しています。入会すると季節ごとに博物館だより『谷人』をお送りするほか、春秋のワークショッ プや夏の企画展の割引チケット等お送りします。また博物館が主宰する阿蘇の学校「南阿蘇鶏牛塾」 の授業料が割引になるほか、博物館が発行する出版物なども割引になります。年会費は千円です。 お申し込みは博物館まで。
編集後記▽博物館がいよいよ動きつつあり ます。次号からの『谷人』充実、再開する企画展、新しい学芸員(見習い)、そして待望の事務所設 立などなど…「・準備室」が取れ、新世紀から始動です。(梶原)

バックナンバー
● 2000年7月号(通巻8号)
寫眞えっせい8 鎮火祭
阿蘇の民俗学15 耕起 [生業/稲作]
阿蘇の生物学2 南阿蘇の水系
あその民間信仰1 馬追い奉納 内牧菅原神社(阿蘇町)
谷人リレートヲク3 桜のとき(木村明美)
はじめての博物館4 常設展
阿蘇のことば7 てしょ
編集後記
● 2000年3月号(通巻7号)
巻頭えっせい7 新酒と呑みカタ
阿蘇の仕事2 種籾 [生業/稲作]
今月の表紙3 田植え
阿蘇の生きものたち1 「谷」の生物多様性
谷人リレートヲク2 自然との対話(白川湧)
はじめての博物館3 入館者数
阿蘇のことば6 ゑーくらい
編集後記
● 1999年3月号(通巻6号)
巻頭えっせい6 極寒の出初式
阿蘇の仕事コレクション1 品種[生業/稲作]
今月の表紙2 消防団
阿蘇のことば5 ひだりー
谷人リレートヲク 谷人の心象(中村宏)
はじめての博物館3 学芸員
お楽しみ阿蘇情報(イベント情報)
編集後記
● 1999年1月号(通巻5号)
巻頭えっせい5 谷人のスゝメ
阿蘇の民俗コレクション12 祝儀[人生儀礼/婚姻]
今月の表紙 うさぎ追い
阿蘇のことば4 ぼく
はじめての博物館2 エコミュージアム
今月のあそ!(イベント情報)
編集後記
● 1998年12月号(通巻4号)
巻頭えっせい4 阿蘇と鉄道
阿蘇の民俗コレクション11 嫁御迎え[人生儀礼/婚姻]
阿蘇のことば3 おぜー
はじめての博物館1 博物館の世代
今月のあそ!(イベント情報)
今月のあそからチョイス 飯喰い祭り
編集後記
● 1998年11月号(通巻3号)
巻頭えっせい3 現代と神楽
阿蘇・民俗コレクション (9)仲人、(10)結納[人生儀礼/婚姻]
阿蘇・ことばコレクション たいがい
今月のあそ情報(イベント情報)
募集します
編集後記
● 1998年10月号(通巻2号)
巻頭えっせい2 俄(にわか)と三絃
阿蘇・民俗コレクション (8)結婚[人生儀礼/婚姻]
阿蘇・ことばコレクション あとぜき
今月のあそ(イベント情報)
谷人のひろば
募集します
編集後記
● 1998年9月号(創刊号)
巻頭えっせい 御輿と笛
阿蘇・民俗コレクション (1)産婆、(2)出産、(3)腹帯、(4)食事、(5)出産、 (6)日明き、(7)誕生祝い[人生儀礼/産育]
谷人のひろば
募集します
編集後記