演奏後記 2005

 演奏後記、再開します。これからは演奏以外の雑記なども気が向いたら掲載しようか、と思ってます。 マメに更新はたぶん無理だと思いますが、宜しくお願い致します!
 チケットのご注文やお問い合わせは後藤 monogurui5015@yahoo.co.jp までメールお願いいたします。

2002年 2005年 2006年

2005年12月10日(土)
酒場の琵琶弾きVol.5[東京]

 渋谷の音楽バー“国境の南”での2005年最後のライヴ。今年から始めた平家物語シリーズの「先帝身投」や、 最近若干アレンジを変えた「五木の子守歌」「むかでの使い」の他、地歌をアレンジした「黒髪」、「ロンリー・ ウーマン」、以前とは全く違う節付けにした梁塵秘抄の仏歌選などを演奏。他の仕事が終ってから駆け付けて くれた尺八の小濱明人君とは「うたえやうたえ」「おんなぬこ」を。
 よく見に来て頂く、鶴田流の水島結子さんがちょうど琵琶持参だったので、急だったが、崩れの手を少し 披露して頂いた。崩れの手、というのは激しい感情や状況の部分で使う手。60パーセントくらいは同じ音使いだが、 弦の数や柱の数(鶴田流は5弦5柱)、調弦のせいでずいぶん違って聞こえる。水島さんは田中之雄先生のお弟子さんで、 一門には若く有能な方が揃っていて違う流派ながら頼もしいと思う。
 “国境の南”では定期的に演奏させて頂いたおかげで毎回、自分なりの目標やテーマが決められ、おかげさまで 新曲の作製やレパートリーの見直しが進んだ。渋谷のど真ん中のバーで、もはや大昔の楽器ともいえる琵琶の語りや 弦がどう響くかという面白さもある。マスター、来て頂いたお客様、どうもありがとうございました。今、 来年に向けての新たなレパートリーも仕込み中なので、また是非よろしくお願い致します。

2005年12月7日(水)
「波と椿と」〜小濱明人・2ndアルバム発売記念ライヴ[東京]

 よく一緒に演奏している、尺八の小濱君の2ndアルバム『波と椿と』の発売記念ライヴ。堀越彰(パーカッション)、 吉野弘志(ウッドベース)、松本太郎(尺八)、向島ゆり子(ヴィオラ)、竹澤悦子(十七弦)の各氏、後藤との デュオを収録したアルバムで、今回もそのメンバーが出演。
 後藤が演奏したのは「おんなぬこ」という曲で、前の後記にも書いたと思うが、管楽器奏者らしい、モードを うまく使った曲だ。夕暮れの神社に女の子がぽつんと佇んでいる感じをあらわしたそうで、神社の、異界に通じて ゆくような雰囲気を琵琶が担当する。夕暮れの神社と女の子というと最近は危険な犯罪の臭いしかしないが、昔は 神社には怖いけれど、おおらかで懐かしい何かがあった。異界が逆に人を守っているような。そんなことを演奏し ながら考えた。
 他の曲も、それぞれの持ち味が生かされていて面白かったが、個人的に興味深かったのは尺八デュオの「F-Temple」。 二管の尺八ならではの、純正律に近い音程がドローン効果を生んでひじょうに心地良い。その中での掛け合いも呼吸に よるグルーヴ感でぐいぐい引き込んでゆく。尺八の特性が生きたみごとなデュオだった。アルバムの問い合わせは http://www.waternet-sound.comまで。

2005年11月29日(火)
岩田や家庭音楽会Vol.3[大分]

 寒空に柿の実…昔は晩秋から初冬にかけて良く見かけた風景だが、最近はあまりお目にかからなくなった。 今回の家庭音楽会を企画された岩田さんのお宅兼会場は大分県の北部、杵築市にある。近くには柿の木が。 赤い実がなり、充分に懐かしい風情を醸し出す。
 岩田さんは東京で長年、みつのねコンサートを中心とした企画や演奏をやられていた。数年前、地元の 大分に帰られ、こちらで今年の夏あたりから企画を再開された。1回目はわたしも良く御一緒させて頂く、 箏・三味線・歌の竹澤悦子さん。その竹澤さんの御紹介で今回、呼んで頂いた。
 住居に接する形で築100年の古民家があり、そこが会場。響きはこれ以上ないほど琵琶にぴったり。 ろうそく他のちょっとした照明、飾りのおかげで独特の演出効果が。50人近くのお客様が御来場。「先帝身投」、 お茶・お菓子付の休憩をはさんで「うたえやうたえ」「むかでの使い」、アンコールに「五木の子守歌」を演奏。 終演後は興味のある方に楽器の詳しい説明をする。アンケートでの意見も好評で、初めての場所だったので安心した。 「先帝身投」が特に好評だったが、今年特に力を入れた題材だったのでとてもありがたかった。
 和楽器にとって、こうした日本家屋の身近な場でじっくり聞いて頂くのはとても大切なことだ。ホールにも当然、 その良さ・面白さはあるが、声、弦の響きや撥の細かいニュアンスなどは今回くらいの場でいちばん良く伝わると思う。 演奏家にとってもひじょうに鍛えられる場だ。これからも末長く続けられていくことを祈るばかりだし、他でも 同様の企画が増えることを願う。

2005年10月27日(木)
ちょっとよりみちライブin丸の内オアゾ [東京]

 和楽器、とくに弦楽器はデリケートで天候に左右されることも多いが、天気さえ良ければ屋外の演奏は好きだ。 最近はPAもしっかりしているので演奏もやりやすい。屋外、とはいっても丸の内オアゾはビルの中の広場で音の 響きも良い。“邦楽ストリート・セッション”がサブタイトル。神社や寺の境内でもよく演奏された琵琶はスト リート・ミュージシャンのさきがけ、ということで最初に演奏させていただく。
 平家物語の「祇園精舎」と壇ノ浦の戦いを手短にまとめたものと「五木の子守唄」を。「五木〜」は旅芸人、 山の民など、まさに大道で生きた人々の心意気が歌いこまれているので選んだ。一気に駆け抜けるような感覚を 出したかったので、メドレーでやる。なかなか快感だったが、いかがなものだっただろうか。
 宣伝も充実していたためか、無料とはいえお客さんは大勢。チラシは出演者の写真、プロフィール、ホーム ページ・アドレスが手ごろなサイズで手際よく掲載され、名刺代わりにも使えそうな感じ。こうした配慮は 演奏者にはとてもありがたい。他には尺八の岩田卓也さん、25絃筝の中井智弥さん、津軽三味線の白田路明 さんが出 演。みな若手の有望な方たちで、演奏も新しい世代の新鮮さがある。ほんと、和楽器はもっともっと 変われる余地がある、と思ったし、刺激にもなった。
 警備員に扮した立川志の吉さんが、演奏の間をつなぐ。要するに、「こらこら、こんなところで演奏しちゃ いかん」と止めに入るわけだ。簡単な台本もあり、コント的展開になるのだが、わたしはこうしたノリは大好き なので楽しめた。「どーもありがとうございました、つぎは…」的なMCじゃ面白くないもんね。時間も全体で 一時間ちょっと。締まりのある好イヴェントに参加させていただき感謝!

2005年10月21日(金)
かたりうた(ジョイントライヴ) [熊本]

 10月21日は熊本の〈ほたる家〉でcocoehさんとジョイント。cocoehさんは「それでよかったのか」というバンドで メジャー経験もある。その後、ネルソングレートでも活動。ピアノ弾き語りのソロ活動は、この名前でやっている。 あ、わたしよりうーんと若いかわいい女性です。わたしの母親に長い間詩吟を習ってました。いっしょにやった曲は 「ムカデの使い」「逢瀬」「恋して眠れ」。あとcocoehさんの朗読に琵琶をつける。「むかで」はファンキーに、 「逢瀬」は叙情的に。「恋して」には琵琶では出せないコード進行をつけてくれ、かなりイメージが広がった。 「逢瀬」、「恋して」は歌謡っぽさも出せたと思うので、わたしとしては満足だった。ピアノと琵琶はまったく 異質な楽器だが、必ずどこかに接点があって、それが見つかるとけっこううまくいくと思う。わたしの持ち味には、 クラシック音楽的な要素は皆無なのでそちらの方向はわからないが、ポピュラー音楽的な要素なら琵琶とピアノは けっこう接点はある。
 cocoehさんの弾き語りは久しぶりに聞いたが、前よりふくらみが出ていて心地よさが増した。ご結婚(おめでとう ございます!)のせいもあるのでしょうか。ちょっとした文学的な屈折感が面白い詩に、70年代あたりのポップ〜 ロック的センスのあるメロディ。それが腰の強さと透明感のある声で歌われる。ピアノ弾き語りをやる人は結構多いが、 こうした個性はなかなか貴重だ。お店のマスターがお芝居もやられる方で、平家物語にも興味がおあり、ということで、 「先帝身投」も演奏。そのうち、平家物語の朗読・琵琶の企画をここでやりたい。

2005年10月2日(日)
琵琶二人旅〜後藤幸浩/塩高和之ジョイント・ライヴ“平家物語特集” [東京]

 10月2日は鶴田流琵琶の塩高和之君との恒例ライヴ。久々に西荻窪の〈音や金時〉で。今回は平家物語がテーマ。 「大地震」はわたしの半分朗読・半分語り歌+塩高君の琵琶。最近は地震も多いので、どうか鎮めたまえ、という 気持ちを込めてやりました。平家が滅んだ直後の地震を題材にしていて、平家の怨霊のせいで地震が起きた、 というようなニュアンスの内容だ。朗読的なものは初めてだったので改良の余地はまだたくさん。琵琶を持たないと ただのおやじなので、琵琶を持たないで人前で何かやる、というのは緊張します。そう考えると、役者さんの 才能はすごい。今度は役者さんに朗読はお願いしよう。
 塩高君の「平経正〜永遠への響き」、わたしの「先帝身投」も平和への希求がテーマのひとつ。平家物語は読めば 読むほど、今の時代に通じる部分は多く、今も昔も変わらない人間のいろいろな側面を考えさせられる。平家を語る中に、 現在を自然に投影させられれば良いと思う。平家物語はどうしても受験・学問といったイメージが強いが、実際に 声に出して読んで、物語の時間感覚や言葉の響きに身を任せてみると、独特のグルーヴを感じることが出来、 なんとなく、細胞が変化するような錯覚にも陥る。そんなことも語り・歌・琵琶から伝わればうれしい。他に「橋合戦」 なども演奏。

2005年6月18日(土)
後藤幸浩、小濱明人デュオ[東京]

 尺八の小濱君と久々のデュオ。千歳烏山のTUBOで。TUBOはライブ・ハウスというわけではないが、 土日を中心にいろんな小編成バンドの演奏をやっている。自然食レストラン的な趣きの、広々とした 気持の良い店だ。
 「うたえやうたえ」「先帝身投(超短縮版)」「五木の子守り歌」「恋して眠れ」をデュオで。 今回は、もたつかないよう、テンション高めに・速く、演奏。他に小濱君の古典本曲ソロ、小濱君作曲で 秋に録音予定の新曲「おんなぬこ」をデュオで。新曲は管楽器奏者らしいモードの工夫があり新鮮だ。
 共演はN-UNIT。ギター・ヴォーカルにパーカッション3人のユニークな編成のバンド。レゲエ、ボサ・ ノヴァ、ブルースなど様々な要素が共存した音で、パーカッションもアフリカ、インド他多彩ながら、 決してうるさくならないのが良い。琵琶でも参加できそうな部分もあり、次回は是非、という感じだった (小濱君は1曲参加)。

2005年6月16日(木)
酒場の琵琶弾きVol.3〜後藤幸浩琵琶弾き語り[東京]

国境の南にて  音楽Bar“国境の南”が渋谷にオープンして1周年の記念ライブ。以前、代官山に店があった時から ライブで何回もお世話になった。マスターも熊本市のご出身なので九州関係の曲が今回は中心。
 「炭坑ブルース」「島原の子守り歌」は久々に演奏した。どちらの曲も九州とアジアの国々との、 不幸な歴史がテーマの根底にある。最近もまたいろいろ軋轢が激しくなっているが、何とか良い方向に 向かう事を願いつつ演奏した。いつも御来場頂く方、久しぶりの方、前日のライブと二日続けて御来場 頂いた方で今回も一杯。ありがとうございました。琵琶弾き語りにはちょうど良い広さ(音の響きも良い)で、 お客さんとの空気感も密なので演奏もしやすい。次回はバックに何か気の利いた布でも飾ろうかと思う。

2005年5月30日(火)
竹澤悦子・後藤幸浩 ジョイント・ライブ[東京]

竹澤さん ホットハウスにて  三味線・箏・歌の竹澤さんと久々のライブ。竹澤さんの韓国民謡風即興に始まり、「ミリャン・アリラン」 「五木の子守り歌」他をデュオ演奏した。竹澤さんの韓国音楽のアレンジものは歌の雰囲気、箏のアイデアと いい、いつ聞いても良い。他におなじみの三味線弾き語り「風がおもてで呼んでいる」も久々に堪能させて いただいた。わたしのソロは「ロンリー・ウーマン」「先帝身投」など。
ホットハウス  会場のホットハウスは10人も入れば一杯のジャズ系ライブ・ハウス。しかし、とにかく、出る料理の質・量は ハンパではない。大皿で次々に出る(写真参照。演奏後、お客様があらかた食べ終った時間の様子なので雑然と してますが…)。 料理込みの料金なので、絶対得した気分になれるはず。だから逆に演奏も負けられない。幸い、 お客様にも喜んで頂けたようだったので安心した。オーナーもとてもユニークな方。競馬、とくに芦毛の馬が 好きな方は、絶対話がはずみます。

2005年5月20日(金)
屋形船の宴[熊本]

江津湖 屋形船  屋形船は一度乗ってみたいと思っていたが、こういう形で実現するとは!
 江津湖の屋形船でレストラン直送の食事と琵琶の演奏を楽しむ、という催しだ。熊本市のニュースカイホテルの レストラン・光琳さんの企画で、江藤ボートハウスさんも共催。江津湖は二つの湖に分かれた広々と気持の良い場所で、 わたしの実家からも自転車での散歩などにちょうど良い。前半に食事をして頂き、後半に演奏。船に 屋形船 も関係した題材の「うたえやうたえ」「那須与一」を聞いて頂いた。演奏中はロウソクの灯りだけで、雰囲気も琵琶にぴったり だったと思う。音も良く響いた。
 わたしは途中から、ふつうのボートに乗せてもらい、屋形船に乗り込んだのだが、夜、ボートに乗るというのも 初めての体験で面白かった。橋の下とには高校生のカップルとかいて、不思議そうに見てましたが。天気が快晴だった のでとにかく、相当気持良かったです。

2005年5月15日(日)
くまもと全国邦楽コンクール記念演奏会[熊本]

 今年で11回目になるコンクールの記念演奏会で、毎年、和楽器を中心としたユニークなコンサートが行われている。 今回は片山旭星(筑前琵琶)さん、長須与佳(薩摩琵琶)さん、わたし、山本學(朗読)さん、宮崎真由美(脚本)さん、 の顔ぶれで平家物語を題材にした内容になった。
 屋島の戦いの際、船の上で平家方の女官がかかげた扇の的を、源氏方の那須与一が見事、矢で射落とす場面がある。 その、扇の的をかかげた女官は、じつは肥後国から召された人物だったという話を軸に、演奏者が朗読の伴奏をやり、 さらに各々が担当した場面を弾き語る、という内容。長須「那須与一」、 後藤「先帝身投」、片山「船弁慶」がその 演目だった。
 市民会館の大ホール、しかもリハーサルは前日だけ、というなかなかタイトな状況だったが、充実した内容になっ たと思う。わたしは他の琵琶演奏家の演奏を聞くのも好きだが、こうして同じ舞台にたつと、さらにその面白さが 伝わり刺激にもなる。朗読をされた山本さんは大ベテランの俳優さんなので、勉強になったのは言うまでもない。 片山さんの琵琶 ホールのスタッフの方々の、短期間のプランニングで印象的な舞台効果を成立させる手際の良さにも頭が下がった。
 琵琶は九州に縁の深い楽器だが、あまり、密に聞き比べを出来る機会も無い。もう少し、朗読の伴奏の音を作り 込んだ方が良かったか、とか、各演目の詳しい解説もパンフに掲載したほうが良かったか、など反省もあったが、 東京でもなかなか成立させるのが難しい企画だったので、また是非次に繋がれば、と思った(写真は撮影失敗。片山 さんの琵琶だけ撮れてました。他で入手出来たら掲載します)。

2005年4月12〜13日
山崎箜山氏と久々に演奏[福岡]

ケイトにて1 ケイトにて2  ここ2、3年ごぶさただった北九州周辺で久々に演奏した。吉田兄弟のツアーやレコーディングにも 参加している、尺八奏者・山崎箜山さんとのジョイント・ライヴだ。
 箜山さんとは97年頃、最近再発されたCD『恋するバナちゃん』のレコーディングで知り合い、以後、 九州を中心に(東京でも何回か)ライヴをやって来た。お互い同年齢で、ロックも好きだったりギターも 弾いたり(箜山さんはリッケンバッカー・モデルのコレクターでもある)するので、あまり細かく打ち合わ せしなくてもさっと演奏出来る身軽さがある。実際、今回も間が空いたにもかかわらず、リハーサルは1回も やらなかった。それでも安定した演奏が出来た(つもりな)ので大したもの(でしょう?)。
 北九州でジャンルを問わず、さまざまなアクースティック・ライヴをやっているケイト・ミュージックでの 演奏(4月12日)には地元の和楽器店関係の方もたくさん来て頂いた。箜山さんは尺八の他、土笛も演奏。 尺八も土笛も円熟味が増し、心に染み入った。

ニブルスにて1 ニブルスにて2  箜山さんの奥さん・宮本直美さんは芸大出身の箏・三絃演奏家。13日は、宮本さんが御実家のレストランで 10回近く続けられている邦楽コンサートの企画で演奏。前半は箜山さん夫妻が「六段」「春の曲」などの古典 の他、ジョン・海山・ネプチューン、吉崎克彦などの現代邦楽の作品を演奏。後半はわたしのソロで「先帝身投」、 箜山さんとのデュオで「むかでの使い」「五木の子守り唄」を。50人近くのお客さんで、やった人間が言うのも 何だが、プログラムも多彩・開場もちょうど良い広さで充実したコンサートではなかったかと思う。北九州近辺は、 個人的にもとても魅力を感じる土地なので、また何回でも演奏の機会があればよいと思う。

2005年4月10日(日)
赤間神宮奉納[福岡]

 この間地震のあった、福岡県北部は平家にもゆかりの深い土地だ。“〜水城の戸を出でて、 かちはだしにて我さきに前にと箱崎の津へこそ落ち給へ。
 をりふしくだる雨車軸のごとし。吹く風砂を あぐとかや。おつる涙、ふる雨、わきていづれも見えざりけり。住吉、筥崎、香椎、宗像ふしをがみ、ただ 主上旧都の還幸とのみぞ祈られける。たるみ山、鶉浜なンどいふ峨々たる嶮難をしのぎ、渺々たる平沙へぞ おもむき給ふ。いつならはしの御事なれば、御足より出づる血は沙をそめ、紅の袴は色をまし、白袴は裾紅に ぞなりにける。”
ちょっと長いが、平家物語(覚一本)「太宰府落」から引用した。水城、筥崎八幡宮のある 箱崎、やはり神社のある香椎は鹿児島本線の駅名にもなっている。鶉浜は香椎より東の遠賀郡内海付近。 これをもっと東へ行くと北九州市、そして壇の浦のある下関に至る。赤間神宮で奉納演奏をやらせて頂くので、 北九州までは、この道のりを辿るように鹿児島本線で行った(平家はこの後四国に渡っており、直接壇の浦に 向かったわけではない)。
雨の赤間神社1  奉納演奏を始めたのは午後2時半くらい。演奏開始の時間あたりから急に雨と風が強くなる。野外演奏での 雨は嫌なものだがさっき引用した物語中の“をりふしくだる雨車軸のごとし。吹く風〜”あたりが思い出され、 かえって気分はたかまった。神殿の前には池があり、回りには回廊がある。水面に響く音と回廊の中に響く音が 一緒になり、ふつうの会場にはない柔らかな感触が体感出来た。琵琶の弾き語りは木造の建物の中での響きが いちばん良い、と思い込んでいたが木と水の組み合わせの中での響きも負けず劣らす麗しい。
 平家物語は、研究者や琵琶演奏家の方々は当然ご存じかと思うが、引用にも使った覚一本の他、延慶本、長門本、 百二十句本などさまざまなヴァリエイションがあり、同じ場面でもかなり表現が違ってたりして面白い。「先帝身投」 ひとつを取ってもセリフ、文章のテンポなどさまざま。演出・脚色の違い、と言ってもいいし、何をいちばん伝え たいのかという、物語を編纂した側のコンセプトの違いでもあるだろう。
 また、物語の詞章が先にあり、それを琵琶法師が語ったというより、琵琶法師やさまざまな芸能者が語っていた 平家の話を集約したのが平家物語の基礎だとも考えられるから、ある意味、語り手の数だけ平家物語のヴァリエイ ションがあったとも言える。
 その後の江戸時代に作られたという、薩摩琵琶の「那須与一」「敦盛(小敦盛)」などは平家物語のそれとは まったく詞章が違うし、明治時代以降新たに作られた平家関連の題材も、それぞれにオリジナリティを持つ。 作られた時代の雰囲気が「平家物語」というフィルターを透し、伝わって来る感じだ。
 物語を語ることは、その物語に宿ったメッセージを伝えることでもある。そしてそのメッセージは時代、語り手 により読み換えられ、更新された方がいい。平家物語はいろんな演奏家の方がやっておられるので、わたしがやら ずとも、みたいな気持でいたのだが、昨年、熊本で小泉八雲没後100年企画の際、平家関連の題材をいくつかやるために、 読み直したあたりからやる気が出始めた。
雨の赤間神社2  平家の時代は戦はもちろん、地震、天候不順、飢饉、怨霊…などが日常茶飯事だったようだ。現代も平家の時代に 負けず劣らす不穏な時代だ。怨霊など神がかり的な話は例外かと思われがちだが、加害者・被害者問わず子供関係の 事件は民俗学的な読み換えをすると、怨霊とまでは言はずともそれに繋がる要素は充分あるように思える(すごく 勉強したわけではなく、単なるカンで言ってるだけなんですが…)。
 こんな時代だからこそ、平家物語の中のメッセージの、わたしなりの読み換え、伝え換えがなんとか出来ないかと 思っている。

2005年3月12日(土)
“渋谷で瞽女唄”[東京]

 渋谷の音楽バー“国境の南”で2回目のライウ゛。今回は瞽女三味線の、ほんとうに数少ない継承者・ 月岡祐紀子さんがゲスト(ライウ゛情報欄参照)。月岡さんには門付け唄と、有名な「葛の葉」をやって いただいた。
津軽、義太夫、地歌…どの三味線とも違う独特の音色が心地良い。適度に土臭いその音色が、クールな 印象の店の中にじわっと拡がり、瞽女さんの旅した、田舎の情景が浮かんでくるようだった。月岡さん自身も、 四国四十八ヶ所を三味線片手に回ったそうだから、そんな、てくてく“歩く”ことから生まれる音のニュアン スが自然と伝わるのだろう。「葛の葉」はストーリーのあるいわゆる“語り物”だが、瞽女唄、と呼び、瞽女 語り、とは呼ばないのが面白い。語りだしの文句にも“あらあら読み上げ奉る”という部分がある。盲目だった 瞽女さんが“読む”とは…ヨム、というコトバが持つさまざまな意味を考えさせられ、興味深かった。
 月岡さんは小さい頃から民謡をやっていただけあって声が良い。瞽女唄、というイメージから来るものなのか、 まだまだ若い、なんてことを言われる(わたしもよく言われた)そうだが、その年齢での持ち味・味わいがあれ ばいいことなので気にする必要はないと思う。
 最後に熊本の民謡「おてもやん」を一緒に歌う。万歳(漫才ではなく)にも近い要素のある歌なので、 またひとつ、アイデアが見付かった。わたしの他の演目は「むかでの使い」「先帝身投」他。「先帝〜」は また若干、文言を替えた。瞽女唄にもむかで、なめくじなどが出てくるネタがあるので、次のジョイントの 時にはやってみたい。お客さんも一杯だったので感謝、です。

2005年2月20日(日)
平家から民話まで〜薩摩琵琶弾き語り[福岡]

 福岡県・新宮町“そぴあしんぐう”の小ホールで演奏。寒い日だったにもかかわらず、満員のお客様、 ありがとうございました。演目は「うたえやうたえ」「むかでの使い」「先帝身投(平家物語より)」 「五木の子守歌」。「むかで〜」はいつもながらに楽しんで頂けて安心しました。
 「先帝身投」は昨年夏、熊本市での小泉八雲没後100年企画以来の演奏。今年は平家物語関係の題材を 演奏することも多いと思います。「先帝身投」は昨夏のウ゛ァージョンから若干変わってますが、 これからも少しづつ手を加え、聞き手の方々も自分も納得のいく内容にしたいと思います。やはり今の 時代状況と少しでもリンクするような持ち味を出したいですね。
 井上裕美さん他のスタッフの皆さん、北九州“アクティブ・ボイス”の増永研一さん、お疲れ様でし た。


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